医師不足はどうしたらいいのか?
全国自治体病院経営都市議会協議会主催の、「地域医療政策セミナー」に行ってきました。これは市の議会事務局からお知らせがあったセミナーで、全国からたくさんの議員の方が来ていました。
産婦人科・小児科の医師不足が引き起こしているであろう、奈良県などの事件を聞くと、2人の子どもを緊急帝王切開で搬送されて市立病院で産んだ私としては、とても他人事とは思えない事件で、地域としてどんな取り組みができるのか、また国はどう対策をしようとしているのかを知りたくて、参加しました。
意外にと言ったら失礼だが、とても面白い講演会でした。
講演はまずは厚労省の医政局総務課長さんのお話で、これからの国の医師不足に対するこれからの政策の説明。北海道から来た議員が質問で、「とにかく何とかしてください!」と強く訴えていました。その訴えに対して、課長さんは困ったような笑いを浮かべて、「とにかく国も頑張ってますから」というようなお答えをしていました。
そして2人目の講師は東北大学大学院医学系研究科教授の伊藤恒敏氏。「帰ったから言うわけではありませんが」と前置きをしつつも「嘘ばっかりです」「騙されてはいけません」「(マグネットホスピタルという言葉を)勝手にパクられました」と言ってのける、笑いの絶えない、しかしとても説得力のあるお話でした。
足りないのは産科、小児科だけではなく、麻酔科も、外科も足りない。医師不足はどこの自治体でも大変に深刻な状態だそうです。同じ規模の先進国の病院の医師数は断トツで日本が、1/2から1/3少ない。これを米英並みに充実させるとすると、全国で、あと67000人医師が必要になる計算だそうです。また、50歳以下の医師の平均勤務時間は1週間で64時間。週休1日でも、1日10時間以上は勤務している計算になります。これが常勤だけに限ると66時間。もしすべての医師が週休2日の8時間勤務を徹底したら、全国で約10万人近くが足りない。
さらに、93%の自治体病院が赤字だということで、考えていた以上に医療の現場が深刻な状態であるということがわかりました。
ではどうすればいいのか。
まず「医療は誰のものか」を謙虚に問い直し、市民へのデーターの開示と問題点の共有化をはかり、現場からの声をあげて制度を自分たちで作ることが必要。そして、病床数が500床前後で医師の教育労働環境が整った「マグネットホスピタル」という、若い医師が集まりやすい病院を医師不足の地域に造る、ということを伊藤氏は提案しています。
厚労省の「医療費抑制」に対しても、「医師数は最低、看護師数も最低、労働時間は過労死水準、総医療費も最低、社会保障も最低で、世界一の長寿国、乳児死亡率最低というのは、無駄が少ないということだ。」と言っていました。
東北大学は、名義貸し、研究助成金などの事件でも話題になった大学。そうした問題を本質的に解決するために地域医療の問題に取り組んでいるとのこと。市民の命のために良い医療を提供したい、そのためにはまず医療現場の現状を知り、改善をという提案には納得。教育現場も、行政内も、一般企業まで、結局はみな、市民であり、労働者であるという視点で、片方だけを悪者にしても何の進展もないのは、教育現場を見れば明らかだと思う。
厚生省の話は「医師が怠けてるから締めていかなきゃ!」的であった。それで本当に問題が解決するのか。国が考えている施策に、弱者切り捨て的なにおいを感じてしまった。
人口10万人に対する医師数はワースト5の神奈川県。だれか一人でも妊婦の事故がないように、祈るしかないのかしら。
参加者は300名ほど。関西弁のおじさま議員と顔を見合せながら大笑い。小田原からは私一人だけ(そしてネットからも)だったのが、ちょっともったいないような気がしながら、永田町から大急ぎで家に帰ったんでした。このことをぜひ地域でも話し合いたいな、と思います。
講演会のスライドが見れます。